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モモクエストで黄桃が出やすい時間ってありますか? - 名無しさん 2011-08-04 17 02 11 アメバの庭マークがでないんですけどどうすればいいでしょうか? - yumi 2011-08-16 12 08 31 だれのマークですか? - 名無しさん 2011-09-11 20 38 54 こたえて - ゆみ 2011-08-16 12 10 11 いちごに水をあげても、 - yuri 2011-08-17 01 29 55 すぐ「げんきがありません」と表示され、いちごが1個しか収穫できません。できたらすぐしゅうかくしないといけませんか? - 名無しさん 2011-08-17 01 31 02 SHOPとかのボタンを押したらエラーでるんですけどどうしたらいいですか? - love 2011-08-24 13 25 16 更新してみては? - 名無しさん 2011-09-11 20 39 36 庭はどこまで広げられるんですかぁ? - 名無しさん 2011-12-27 14 33 45 12回まで広げることができますよ。 - 名無しさん 2012-01-28 08 02 30 ピグライフができないんですが・・・ - 名無し 2012-04-08 12 56 24 教えてください - 名無し 2012-04-08 12 58 39
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「いきなさいホーリエ!」 真紅の声とともに、開け放たれた入り口ドアから紅の光球が飛び出していった。 可能な限り明度を落としてある上、陽光の中であの速度だ。目視できる者などそうはいないだろう。 小萌の居るであろう場所―――他の薔薇乙女がいる位置は、ホーリエにしか感知できない。 人工精霊の案内で向かう手もあったが、光球が人を案内する様は、いやがおうにも無関係の人間の気をひいてしまう。上条の知り合いにでも会えばさらに面倒だ。 真紅はホーリエからの情報は受け取ることは可能。ならばホーリエを先行させることで、目的地を知ろうというのである。もちろん、その場で小萌が危険な目にあっていれば助けることを前提で。 「くそっ! よりによって小萌先生の方かよ!」 上条は、ジャストミートされた弾丸よりも早く小さくなっていくホーリエを見送ることもせず、乱暴に己の靴に足を突っ込んだ。 ついさっきインデックスが危ないと考えたときよりも焦りが大きい。明確に危険が迫っているとわかってしまっている。 苦虫を噛み潰したような表情が、彼の焦燥感を如実に顕していた。 五和のようにバイクも、その免許も持たない上条だ。確定的ではない場所への移動は己の脚しかなかった。 自転車という手段もないではないが、上条はそれそのものを持っていないし、小萌の物があったとしても体格があわないだろう。 ここからどれくらいかかるかわからない。時間と体力の勝負になる。 「・・・・・・」 一方、彼の足元でその様子を見上げながら、真紅は僅かに眉を寄せていた。 (・・・ごめんなさい当麻) 自分の闘いに巻き込んでしまって。 真紅は胸の奥から浮かび上がったそんな台詞を、なんとか飲み下した。 上条はきっとそんな謝罪を求めてなんかいない。逆にそれを気に病んでいることを知れば、彼は彼自身を責めるに違いない。 上条当麻はそういう人間なのだ。 「よし! 行くぞ真紅!」 爪先をガンガンと玄関土間に打ち付けつつ、上条が左手を差し出した。 焦燥に満ちた彼の瞳には、しかし真紅を責める色は一片足りとも混ざっていなかった。 「ええ」 だから真紅はただ頷き、その手をとった。すぐさま引っ張り上げられる。 そのタイミングに合わせて身を捻る真紅。まるで申し合わせたかのような動きに無駄はなく、ストン、と彼の左上腕に腰かけた。 そして上条は部屋の中に視線を向け、 「じゃあ行ってくる! 二人とも待っててく「待ってとうま!」っ!?」 上条の声が、インデックスに遮られた。 いつの間にか近づいていた彼女が、至近距離から見上げてきている。 インデックスは大きく息を吸い込むと、 「わたしも一緒に行くんだよ!」 と、言った。 「はあっ!?」 驚いたのは上条だ。 だがインデックスの表情は変わらない。本気の顔である。 「ば、ばか駄目に決まってるだろ!」 「やだ! ぜったい行く!」 「駄目だって! 相手がどんなやつか全然わからないんだぞ!? 水銀燈みたいなやつだったらどうすんだ!」 「危ないってわかってるのにとうまだけ行かせるわけないんだよっ!」 「インデッ「それにとうま!」 再度上条の声を遮るインデックス。その声の強さに上条が言葉を詰まらせた。 「もしまた結界が張られてたら、どうするの? とうまの右手なら壊せるかもしれないけど、ああいうのには核があるんだよ? なにをどういう風に壊したらいいか、わかる?」 「っ」 息を詰める上条。 「それは・・・」 「わたしならわかるよ。とうまみたいに壊したりできないけど、何をどうすればいいかわかるもん」 「で、でもよ、結界と真紅は関係が」 ない、と言い切る前にインデックスが首を振る。 「関係ないなんて言えないんだよ。魔術師の基本は秘密であること。とうまが『ない』って決めつけてることを狙ってるかもしれないんだよ」 魔術師とは、秘匿をもってその基本とする。それは自己の術式や狙いが知られたら対抗措置をとられるということだけではない。 広く一般に知られていることや長く続いていることが『一般常識』『慣習』という強制力を持つこととは真逆に、ごく一部しか知られないことは『貴重』『秘密』という名前で強力な力を持つ。 魔術というものが一般的に普及していないのはそのためだ。魔術師は魔術を『秘密』にすることで魔術を維持しているのである。 要するに秘密は彼等の力であり、一部と言えた。それほど魔術師は物事を隠すことに長けている。 魔術師が残した痕跡や情報を信用しないのは、対魔術での鉄則だった。 「・・・・・・」 沈黙する上条。 インデックスの言い分に、不覚にも説得力を感じてしまったからだ。 三沢塾事件。 御使堕とし。 法の書。 使徒十字。 いままでにも何度も経験した『敵味方の目的の相違』を思い起こせば、インデックスの言葉は無視できるものではない。 水銀燈も真紅も結界の大元は知らないだろう。 だが、その知らないことを敵であろう魔術師が知っていたら? 仮に敵の魔術師がいなくても、ローゼンも魔術師だ。真紅が知らないだけで、ローゼンが結界術の能力を授けていないと、なぜ言い切れる? そして、もしも小萌のいる場所に結界が張られていたら? 上条はそこに入ることができないかもしれない。小萌を助けることができないかもしれない。 「・・・・・・」 上条はインデックスを見る。 魔力を持たない彼女は、目にしていない魔術までは感知できない。だが、 「とうま」 近くにいるならば、話は別だ。 「っ」 上条はインデックスを危険な目に遭わせたくない。 姫神も、小萌も、そして叶うならば渦中であるはずの真紅だって、戦場に連れていきたくない。もしもそんなことに巻き込まれたら、全力で助けに行くだろう。 だがそれは――― 「わたしだって、役に立てるんだよ」 「―――っ!」 インデックスたちも同様なのだ。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 沈黙。そして、 「~~~~っ!」 上条は頭をバリバリと掻いた。そして次の瞬間、 「ええいちくしょうっ!」 左腕に抱えていた真紅を、少し乱暴にインデックスに押し付けた。 「きゃあっ!?」「ひゃあ!?」 いきなりの動きに紅と白から同時に悲鳴が起こる。 それでも白は紅を落とすことなく抱え、上条を見た。 「インデックス」と、上条。 彼の言葉が自分の名前だと、インデックスは一瞬わからなかった。 「・・・・・・」 だからインデックスはぽかんとした表情で彼を見つめつづける。 上条は彼女の両肩に手を置いた。そのまま、告げる。 「約束だ。危ないと思ったら絶対に逃げること! 絶対無理しないこと!」 「・・・・・・」 「俺が逃げろつったら、絶対に言うことを聞くこと! ・・・それが約束できるって言うんなら」 一息。 「インデックス。俺と一緒に、小萌先生を助けにいこう」 と、上条は言った。 「・・・・・・」 それは一緒に戦うことを彼が承諾したということ。 なし崩し的に巻き込まれたいままでとは違い、インデックスの力が借りたいという、そういう意味だ。 じわり、とその言葉が耳に染み込み、 「う、うん!」 理解に達した瞬間、インデックスは頷いた。 これから戦場にいこうと言うのに、満面の笑顔を浮かべて。 「・・・・・・。」 力強く頷くシスターを見ながら、姫神は内心でため息をついた。 ついていきたい、と思う。 小萌は行く先のなかった自分を拾ってくれた恩人だ。その彼女が危険に巻き込まれているというのだから、自分も助けにいきたかった。 だが、それは叶わない。 (・・・私は。役に立てないから) きゅっ、と下唇を噛む。 『吸血殺し』 身に宿る能力は吸血鬼に対して絶対無敵で―――ただそれだけのものだ。 上条のようにあらゆる幻想に効果があるわけでも、シスターの知識のように汎用が効くものでもなかった。 身体能力も一般の女性とそう変わらない。むしろ低い方だろう。 共に行ったところで、自分の身すら護れない可能性が高かった。 一緒に行くと言えば、上条は頑強に反対するに違いない。とはいえ、シスターが行く手前、彼には断りきることはできない、と思う。 しかしその場合間違いなく、彼は彼自身以上にこちらを護ろうとするだろう。 三沢塾の事件と、先の大覇星祭。 彼には二回、己の命の瀬戸際を見られていた。 学園都市にいる彼の知り合いの中で、おそらく自分がもっとも、彼に対して『迫りくる死』を見せ付けている。 自分が行くことで自分が倒れるだけならまだしも、彼が身代わりになるなど、あってはならない。 「・・・・・・。」 前を見る。 シスターは胸の中にいる真紅をなんとか収まりがよくなるように四苦八苦して抱え直していた。彼女の表情には戦闘に向かおうとする者としての緊張感ももちろんあったが、それと同等に、彼に頼られたという喜びを内在させていた。 上条とともに行こうとする彼女と、その思いはあっても足手まといにしかならない自分。 胸に渦巻くこの感情がなんという名前を持つのか、考えるまでもなかった。 「・・・・・・。」 彼とシスターに気がつかれないように、後ろ手に、ぎゅっと手を握る。 自分ができることとすべきことは、彼の不安要素を少しでも減らすこと。 それだけで、それが精一杯だった。 「・・・・・・。」 しかし彼女はいま、迷っていた。ついていくついていかないの話ではない。 下手をすればそれ以上に気になってしまっている、ひとつの懸念。 彼女はその懸念の元凶である『それ』に視線を固定したまま、迷っている。 それを彼に告げるべきか、否か。 「・・・・・・。」 だがそれを決断する時間はなかった。 姫神の目の前で、インデックスが真紅を抱えて頷いたのだ。 「とうま、準備ができたんだよ!」 何度かの抱え直しのあと、ようやく収まりよく真紅を抱えることに成功したインデックスが、上条を見上げる。 インデックスはいまにも駆け出しそうな調子だ。彼女も彼女なりに焦っているのだろう。 しかし上条は、 「じゃあしっかり捕まってくれ」 と、言って、インデックスの背中側に回り込んだ。 「へ?」 と顔を巡らすインデックスの肩に左手を回し、 「え?」 少し屈み込んで右手を膝の裏に添え、 「ええっ!?」 そのまま一気に立ち上がる。 「ひゃあっ!?」 インデックスの可愛らしい悲鳴が響いた。 それは漫画等ではよく見るが、実際にはそう滅多にお目にかかれない体勢だった。 世ではそれをお姫様抱っこという。 「とととととととうま!?」 「・・・・・・」 状況を理解したインデックスの顔が一気に紅く染まり、さらにその胸にいる真紅の頬が僅かだけ引き攣った。 「い、インデックス、あんまり暴れないでくれよ。バランスが取りづらい。後、首に手を回してほしい。少しでも体を支えてくれると助かるんだ」 「う、あ、わ、わかった、かも・・・」 ごく直近にある上条の顔。声とともに頬にかかる呼気を感じながら、おずおずと上条の首に手を回すインデックス。 「・・・よし」 上条の方はそんなインデックスに気がついた風もなく、バランスを確認。走ることに問題がないことを確かめる。 それから、姫神に目を向けた。 「・・・・・・。」 姫神は、一見無表情のようにも見える顔。 だが上条にはわかる。 あれは、心配している顔だ。 きっと姫神もついてきたいに違いない。 小萌は彼女にとって恩人で、そして上条もインデックスも―――自惚れでないと思うが―――大事な友人なのだから。 だが連れてはいけない。 インデックスのように、いざというときに魔術から身を護る術がない彼女。 水銀燈との戦いを思い起こせば、上条といえども必ず護りきれる自信がなかった。 「姫神」 「・・・・・・。」 「すまん、スフィンクスとここで待っててくれないか」 言いながら上条は思う。 彼女の性格上、そしてインデックスを連れていく以上、ついてこようとするだろう、と。 だがその予想に反して、 「うん。待ってる」 と、和装の少女は頷いた。 「・・・・・・」 驚いた表情を浮かべる上条。しかしすぐにそれを改めた。 姫神が、よく見なければわからないほど小さく、しかし確実に、辛そうに眉をたわめていたからだ。 姫神は後ろに回していた手を解き、胸の前で組み合わせた。 西洋の祈り方。 和装であっても、そんなことは関係ない。姫神はただ、上条とインデックスの無事祈る。 「私のことは心配しないで。勝手に追い掛けていったりもしない。きちんと待ってるから。だから」 「・・・・・・」 言いながら、姫神は上条とインデックスを見た。 「小萌先生を。助けて」 「わかった。任せてくれ、姫神」 その言葉を残して玄関を飛び出して行った上条の背中を追い掛け、廊下まで出る。 だがそこまでだ。 それ以上進むことは約束を破ることになる。 「・・・・・・。」 もう人目を避けることを諦めたように疾駆を始めた彼らを見る、彼女の瞳。 彼女の視線は変わらず心配を讃えたまま、やはり変わらず『それ』に固定されていた。 「・・・・・・。」 見ているモノ。 それは、真紅だった。 「・・・・・・。」 真紅の服よりも赤い顔のシスター。その胸に抱えられた彼女は、上条と同じ焦りと満ちた顔。こっちを気にしている様子もなかった。 「・・・真紅。」 ぽつり、と舌の上でその名を転がす。 だが彼女の口は、それだけで止まらなかった。 水銀燈。 金糸雀。 翠星石。 蒼星石。 雛苺。 雪華綺晶。 次々と、薔薇乙女の名前を口にする。 だがそれは真紅から聞いたこと―――ではない。 ―――無念。ローゼンの傑作である薔薇は、すでに昇華されていた。別の方法を探さなければならない。 「・・・・・・。」 脳裏に、ある男の言葉が甦る。 少し以前に、協力関係にあった男の言葉である。 その男は魔術師で、錬金術師だった。 その男は、パラケルススの末裔だ、と言っていた。 その男は、『完全なる知性主義』の魔術師だった。 その男が魔術について話をしてくるのは珍しかったが、それゆえに覚えていたのだ。 ローゼンと薔薇乙女について、話していたことを。 「・・・気をつけて。上条君。彼女はもしかしたら」 ぎゅっと手摺りを持つ手に力を篭める。 その後に続いた言葉は、吹き付けたビル風に撒き散らされ、彼女自身の耳にも届かなかった。 屋上は大規模デパートらしく、かなりの広さを有していた。 屋台や花屋、ペットショップ等の店が並び、子供用のアスレチック広場まである。フェンスで囲まれ、眼下に町並みが見えることを除けば、ちょっとした公園のようだった。 「・・・・・・」 買い物客や、そもそもこの『屋上公園』を目当てに来た家族連れで賑わう中。 アスレチック広場付近に設置されたベンチに腰掛けた小萌は、うーん、と空を見上げた。 待ち人が、こない。 (・・・困りましたねー) 内心で呟きながら、視線を真正面に戻す。 その先では、多くの子供たちに混ざって、雛苺がきゃいきゃいとアスレチックで遊んでいた。 彼女の特徴的な風貌も、幼児たちにはあまり関係がないようだ。最初こそ珍しげにされていたが、5分もたたないうちに一緒になってはしゃぎ回っている。 「・・・・・・」 小萌の困ったように結ばれた口元が、ふっと緩んだ。 走り回り、アスレチックを登り降り、そして笑いあう。雛苺は明らかに異国の出だが、なるほどこうして見れば、子供というものは何処だろうと同じなのだと思える。 (うんうん、子供はみんなで遊ぶのが一番なのです) 周囲にいる多くの親たちと同じような表情を浮かべる小萌。 すぐ傍にいた家族連れが、そんな"年齢不相応"にしか見えない微笑に首をかしげたが、幸いにも彼女は気がつかなかった。 「こもえー」 アスレチックの天辺で、ブンブンと手を振ってくる雛苺。 「はーい」 それに返事をしながら、小萌は大きく手を振り返した。 すると雛苺は嬉しそうに笑い、すぐにアスレチックの下りに入った。気分は登山家、というところなのだろう。 フリルの多い洋服に四苦八苦しながら降りようとする危なっかしいその動きを苦笑を浮かべてから、小萌はちらりと腕時計を見た。 デジタル時計の文字盤は、買出しに出かけてから、もう2時間の経過を知らせている。 「・・・なんとか電話できませんかねー」 流石に、これは遅くなりすぎだろう。インデックスと姫神に本気で心配されていてもおかしくはない。 アスレチックの方に目を戻す。 雛苺が遊ぶのに夢中のいまなら、電話するタイミングとしてはいい具合だ。 しかし残念ながらこの屋上には、公衆電話という設備はなかった。先ほどから周囲を見回しているのだが、唯一あったのは非常用の回線だけのようだった。ダイヤルもボタンもない受話器で自宅へ電話をかけようと思うほど小萌はチャレンジャーではない。 「下の階にならあるのかもしれませんけど・・・」 雛苺を連れて階下に降りる手もあるが、迎えに来る人物とすれ違いになってしまっても困る。 小萌の知り合い―――それこそ生徒でもいいのだが―――とでも遭遇できれば話は早いが、こういうときに限って遭わないもの。顔の広さと覚えられやすさは学園都市トップクラスなのだが。 (ヒナちゃんもここで待っていればいいって言ってましたけど) 「こもえー」 「はーい」 (・・・忘れちゃってるみたいですねぇ、ここに来た理由) 確かここに『べりーべる』がいると言っていたように思う。 屋上にまで登るように雛苺に言われここにきたものの、それらしい人が待っているわけでもなかった。雛苺に聞いても「まだー」としか答えてくれなかったのである。 (ヒナちゃんの言う『人形のお姉ちゃん』が『べりーべる』って人、ですよね) 出てきた人名やその流れから言っても、それは間違いないはずだ。だがそれらしい人は、少なくともこの屋上には見えなかった。 「・・・・・・」 念のためにもう一度周囲を見回す。 だが、結果は変わらない。 「・・・・・・」 (仕方ない、ですかねー) はふ、とため息ひとつ。 気が進まない、という顔で、小萌は先ほどから意識的に避けていた方向に視線を向けた。 屋上出入り口付近にある屋外サービスカウンター。 各種サービスの総合受付であるそこは、当然のごとく迷子の受付も館内放送も行っている。 小萌個人としては、あまり使いたい手段ではなかったが、もうそれ以外に方法がなくなっていた。 迷子となれば当然、詳しい事情聴取も避けられない。それを行うには雛苺はまだ幼く、小萌の方は見た目が影響して説明がめんどくさいことこの上ない。 それになにより、雛苺の置かれた状況を一から説明すれば、下手をすると『警備員』を呼ばれてしまう可能性が高かった。 そうなればせっかく回避しようとした"置いていかれる"感覚を、雛苺に与えることになってしまうのである。 「でも、これ以上遅くなったら、そっちの方が大変なのです」 生徒ではないが、彼女のために自分の手間を惜しんでいられない。そして雛苺もそうだが、自分がいなくなったことでインデックスたちにも心配をかけているに違いないのだ。 止む終えない。 そう結論した小萌が、雛苺をこちらに呼ぼうとアスレチックに目を向けて、 「こもえー?」 その瞬間、ひょい、と真横から雛苺が顔を出した。 「うっひゃあっ!」 「キャー!?」 予想外のことに思わず飛び上がる。 タバコは吸うが肺活量は見た目以上の小萌の声が屋上に響き、一気に視線が集まった。 「ひひひひひ、ヒナちゃん!?」 身に刺さるような視線に反応する余裕もなく、雛苺に目を向ける小萌。 雛苺は雛苺で、地面にへたり込んだ姿勢で、大きな目をさらに大きく見開いてこちらを見上げてきていた。 「び、びっくりしたのよー!」 と、雛苺は言った。 「あ、ご、ごめんなさいヒナちゃん・・・小萌先生も、ちょっとびっくりしちゃいまして・・・」 わたわたと手を振りながら、雛苺を引っ張り起こす。幸いどこも怪我はしていない様子である。 「うゆ・・・ごめんなさいなのこもえ。ヒナ、びっくりさせちゃったのね?」 「あ、いいえー。小萌先生の方こそ大声出しちゃってごめんなさいです。・・・それより、大丈夫なのですか? 怪我とかしてませんか?」 「だ、大丈夫なの。ちょっとシリモチをついちゃっただけなのよ」 そう言って自分で、ぱふぱふとドレスのスカートをはたく雛苺。 どういう素材なのか、土足であがる屋上に転んだにも関わらず、そして先ほどから走り回っているのにも関わらず、彼女の服はまったく汚れた様子もなかった。 そうですかよかったー、と安堵のため息をついた小萌の目の前で、 「えへへ」 不意に雛苺が笑った。 「? どうしたんですか?」 雛苺は上目遣いに、小萌を見た。 「あのね、あのね」 「はい」 「えへへへへ」 少女の無邪気な笑み。 「なんですかー?」 それにつられるように、小萌の頬にも笑みが浮かんだ。 「うーとね」と、雛苺は言葉を続ける。「ヒナ、こもえに会えてとっても嬉しいの」 そう言って、雛苺は小萌の手を取った。 小萌のそれよりなお小さい手で、きゅっ、と握ってくる。 「ヒナね、ずっと寂しかったの」 「え?」 「・・・ヒナは鞄の中でずっと眠ってて、それで一人ぼっちだったの」 「・・・・・・」 「今日、起きてから人形のお姉ちゃんに言われて、待ってて、でもやっぱり一人ぼっちで、寂しくて泣いてたのよ」 「・・・・・・」 「でもこもえが来てくれて、ヒナは寂しくなくなったの。・・・こもえは、ヒナにとっても優しくしてくれたの」 ぎゅっ、と雛苺の手に力がこもった。 「だからね、だからー・・・」 にこりと、本当に素直な笑みが小萌に向けられた。 「ヒナ、こもえのことがだーい好きなのよ」 「・・・ありがとうなのですヒナちゃん」しっかりと雛苺の手を握り返す小萌。「小萌先生も、ヒナちゃんのこと好きになりましたよ」 「えへへへ・・・だからね、こもえ」 雛苺は小萌と手を繋いだまま、その掌の中に小さな何かを滑り込ませた。 「これ、あげるのよ」 そう言って、雛苺はするりと手を離した。 「?」 握った手の隙間を通るようにして入ってきたもの。 軽く首をかしげて自分の掌を見る。 「・・・指輪、ですかー?」 そこにあったのは小さな指輪だった。 小萌の手の上でもなお小さく見える、子供用と思える小さな指輪。雛苺か、それこそ自分程度の大きさの指にしか嵌らなさそうなものだ。 (これは、苺、ですかね? ヒナちゃんらしいですけど) 植物の象りは繊細で、極めて細かい。一目見ただけでかなり高価なものだとわかった。 「ウイ」 こくりと頷く雛苺。そして雛苺は後ろ手に手を組むと、真下から小萌を見上げた。 「ヒナはこもえのこと大好きだから。だからそれ、こもえにあげるのよ」 「で、でもこれ、ヒナちゃんの大事な指輪じゃないのですか? そんなの、小萌先生がもらうわけにはいきませんよー」 「ううん」と、雛苺が首を振る。 「こもえに、もらってほしいの。その指輪は、ヒナが一緒にいたいと思った人にあげるように、お姉ちゃんに言われたの。だからヒナはこもえにあげたいのよ」 「でも・・・」 「・・・それに早くしないと、間に合わないのよ」 「え、何に、ですか?」 首をかしげて雛苺を見るが、 「・・・・・・」 彼女は少しだけ困ったように笑ったまま、答えようとしない。 「・・・・・・」 雛苺は尋ねてくる小萌にこたえないまま、僅かに視線を上向けた。 もう秋になろうとする青い空の中で、無音のまま飛び交う二つの存在がある。 あまりにも色が薄く、あまりにも高速のために他の誰にも気がつかれていない。 ぶつかり合う、紅色と桃色の、光球。 「・・・わかりました。小萌先生もヒナちゃんのことが好きですから」 僅かな沈黙の後、小萌はそう言った。 「!」 途端、雛苺の顔が、ぱっと明るくなる。 「じゃあ、こもえ。いますぐそれをつけてほしいのよ」 「え、いま、ですか?」 「うい。いますぐ、この指につけて」 ちょん、と少女の人差し指が、小萌の薬指を突付いた。 「え”」 ちょっと予想外の要求に、思わず小萌は固まった。 だが雛苺は、さらに続ける。 「それでね、それでね・・・つけたら、指輪にちゅってしてほしいの」 「ちゅっ!? ちゅって・・・」 「ちゅはちゅなのー」 言いながら、雛苺は自分の指に唇をつける。流石の幼児。恥ずかしげな様子はまったくない。 「そっ、それは、絶対にしなくちゃいけないのですか!?」 「そうなのー」 すごくいい笑顔で返された。 これでも年齢的には立派な羞恥心の持ち主で、そして見た目以上―――否、実年齢基準から見ればかなり純情な小萌だ。正直遠慮したかったが、あまりの無邪気な返答に、いやだ、とも言えなくなる。 「・・・わ、わかりました」 数秒間の葛藤の後、承諾の返事を返した。残念ながら小萌の中に、キラキラと目を光らせる子供の瞳を裏切るという選択肢は存在しないのである。 (し、仕方ないのですよ。子供のお願いを叶えるのも大人の役割なのです) 小萌はゆっくりと左手薬指に指輪を嵌め―――その際、なぜか赤い神父の姿が浮かんだが―――次いで、口元に手を持っていく。 その間にも、雛苺は近くからその様子を見上げてきている。 (うう・・・そんなにじっと見ないで欲しいのです) 別に誰かにするわけでもなく、対象は自分の手である。正確には指輪のほうであるが、指を切ったときに舐めるのと状況的にはそう変わりがない。 それでも、やはり恥ずかしいものは恥ずかしかった。 「じゃ、じゃあしますよー?」 「うい!」 確認するような小萌の言葉に、元気なフランス語が返ってきた。 そんなに恥ずかしかったらやっぱりいいのよー、とでも言ってもらうことを期待していたのだが、叶わぬ夢らしい。まぁこのくらいの子供にそういう気遣いを求めても無駄なことである。 「・・・・・・」 再び脳裏に浮かぶ赤い神父の姿。それを、きゅっ、と目を閉じて掻き消すと、小萌はゆっくりと指輪に唇を近づけた。 そして、苺を模した指輪に、彼女の唇が触れる。 その瞬間。 ドクン、とまるで生きているかのように、指輪が鳴動した。 「ひゃ!?」 驚いて唇を離す小萌。 だが彼女には指輪も、そして雛苺の顔を見る時間はなかった。 (え・・・?) まるでひどい風邪をひいたときのような倦怠感が全身にのしかかり、目の前がぐらりと揺れる。 「えへへへ・・・」 雛苺が笑いながら、横倒しに倒れかけた小萌の背中に手を回した。 「これでずぅっと一緒なの・・・ずぅっと、いっしょに遊ぶのよ・・・」 歌うような少女の声。ベンチに腰掛けた姿勢でぐったりとし、雛苺に支えられている小萌には、突然の疲労感も、彼女の言葉の意味も問う余裕はなかった。 そこに――― バン! と屋上に大きな音が響いた。 「「「!?」」」 小萌たちの周囲にいる者たちが、いっせいに音がした方を見る。 「小萌先生!」「こもえ!」 「・・・?」 唐突に名を呼ばれ、そちらに目を向ける小萌。 屋上への出入り口、自動ドア。 そのドアが開ききる前に駆け込んできたため、誰かが激突したのだ。 大きく揺れるドアガラス。しかしぶつかった当の本人は痛みにも視線にもまったく気にした風がない。 崩れた体勢をドアにすがりつくようにしてこらえながら、こちらを見るその誰かは、 「か・・・みじょ・・・うちゃん・・・?」 見覚えのあるツンツン頭の少年と、その隣で少年を見る白いシスター。 その二人を小萌は知っていた。 いつか傷だらけのインデックスを担ぎ込んできたときと同じ真剣な顔で、少年―――上条がこちらを見ている。 (ぁ・・・・・・) しかし、そこまでが彼女の限界だった。 急速な闇が彼女の意識を多い、そのまま黒に染めていく。 重くなった意識に負けて目を閉じる寸前の耳に、キン、と金属音にも似た、甲高い音が響いた。 それが結界が張られた音だということを、小萌には知る由もない。 「!」 がくりと小萌が意識を失ったのを見た上条が、ざわめく周囲を無視して駆け寄ろうとする。 しかし。 「だめだよとうま!」 インデックスが彼のシャツを掴んでとめた。 「うわっ!?」「きゃあ!?」 がくっ、と急制動をかけられる上条。シャツの襟元で首がしまり、左腕の真紅が落ちそうになって慌ててしがみつく。 「げほっ! なにすんだよインデックス! 早くしないと先生が・・・!」 「結界が張られたかも!」 上条の非難の声を、インデックスが遮った。 「!」 慌てて周囲を見回す。すると違和感は一目瞭然だ。 小萌の家からここまで。さんざん晒されてきた奇異な視線が、いまはもうない。 ざわめき、人ごみ、すべては日常のまま。だがそれが『コインの表』に変わった瞬間、彼らの認識の中から上条たちは消えうせている。 結界が張られた以上、掻き分けてでも進もうとしたその人ごみはもう蠢く圧搾機と化している。うかつに飛び込めば、ヒトとヒトに押しつぶされてしまう。 触れても『ひっぱられる』ことも『押しつぶされる』こともないのは、デパートに到着した時点で腕から降ろし、いま真横に立つインデックスと、 「あれは・・・雛苺!?」 上条の左腕に腰掛けた真紅のみ。 その真紅が、驚愕を露にして叫んでいる。 視線の向きは上条、そしてインデックスと同一方向。小萌に抱きついている、幼児といっていいほど小さな少女だ。 だが彼女の視線は上条たちとは種類が異なる。それは言うなれば―――あり得ないものが、そこにあるというようなもの。 「そんな・・・これはどういうことなの?」 呆然と、信じられないような口調。 「なぜ雛苺がここにいるの・・・貴女はあのとき白薔薇に・・・!」 そうだ。 雛苺は、もういない。 共にアリスゲームを終わらせようとした彼女は、白薔薇にとって喰われてしまったはずだ。 それがなぜここにいるのか。 いやそもそも、それ以前に、 (なぜ私は、ベリーベルの存在を忘れていたの!?) 胸に手を当てる真紅。 自分は雛苺のローザミスティカを得ていたはず。それは雛苺が望んだこと。身体を失ってもなお、自分とともに戦おうとしてくれた彼女の意思。 それを、なぜ、忘れていた? 「真紅・・・来てくれたのね・・・」 「っ!」 思考に沈んでいた真紅を引き戻したのは雛苺の声。 彼我の距離は十数メートル。人ごみ越しであっても、なぜか彼女の声は真紅にも、そして上条たちにも届いた。 「ひ、雛苺、なの? 本当に、貴女なの?」 震える手を雛苺に伸ばす真紅。凛とした意思を湛えていたはずの彼女の瞳は、信じられないものを見ているかのように震えている。 「真紅!? どうしたってんだよ、おい!」 上条が心配そうに真紅を見た。 真紅の態度は尋常ではない。とても姉妹に出会ったとは思えない態度だ。 だが真紅が上条の疑問に何か言うよりも早く。 「えへへへ・・・」 ひらりとベンチから、いや、小萌の腕の中から飛び降りた雛苺が、上条たちに正対して、笑みを浮かべた。 そこに浮かんだのは、見た目どおりの邪気のない笑み。 だがその無邪気さは、ためらいなく昆虫をばらばらにできる子供ゆえの残酷をあらわすものだ。 「っ」 純粋ゆえの狂気をその瞳から感じ取り、インデックスが息を呑んだ。 「待ってたの、真紅。ヒナはお姉ちゃんに言われて、真紅を待ってたの」 言いながら、雛苺は上条たちに目を向けたまま、小萌に右手をかざした。白い指先が小萌に―――小萌の指輪を指し示す。 「う・・・」 小萌の表情が苦しそうにゆがみ、 「!」 コオッ! と指輪が光を放った。 同時に、小萌の纏う洋服―――パーカーにジーンズというラフな格好―――が、まるで幻想でも見ているように、ドレスに変化する。 それは色合い、形状、どれを見ても雛苺が纏っているものと同一のものだ。 変化は意匠だけに留まらない。 しゅるしゅると雛苺の足元から立ち上がった苺ワダチ。 それはもう力の入っていない小萌の四肢に巻きつき、それだけでは飽き足らず、小萌の身体を網の目状に覆っていった。 結果出来上がったシルエットは、言うなればヒト型の鳥篭だろうか。 十字架に下げられたような格好の小萌を中心に、苺ワダチが成人男性のシルエットを構成している。 「あ・・・うあ・・・」 『鳥篭』の中で小萌が苦しそうな声をあげた。 「な・・・!」 魔術。 それを目の当たりにした上条が目を見開き、 「や―――やめなさい雛苺!」 茫然自失の状況から立ち直った真紅が叫ぶ。 (まさか・・・Nのフィールド!?) 契約者の意匠の変化が意味することは二つ。 通常、鏡の世界にしか存在しないNのフィールドが現世にあるということ。 もうひとつは、媒介として許容量以上の力を薔薇乙女に与えているということだ。 そして変化の度合いが急激であればあるほど、 「その人を離しなさい雛苺! 貴女、自分がなにをやっているかわかっているの!?」 真紅が叫んだ。その顔は焦りに満ちている。 ―――契約は私の力を引き出すために必要な手続きに過ぎない。私が力を振るうと、どうしても、貴方の体力を奪ってしまうのだわ 「!」 上条の脳裏に、先ほど真紅から聞いた言葉がよみがえった。 体力のある上条にして、身体の芯にダメージを残すほどの疲労。それをただでさえ小さな体躯の小萌が受けたとしたら。 「そんなの、わかってるのよ」 雛苺が応ずる。無邪気な顔が上条たちに向いた。 「ヒナ、言われたの。お姉ちゃんに、言われたの。こもえに会って、ここにきて」 カクン、と彼女が首をかしげた。 まるで力の篭っていない、人形同然の不自然な動き。そして幼い彼女の口元が、まったく中身のない笑みを浮かべた。 「真紅を壊せって」 「なっ!?」 真紅の目が見開かれる。だが彼女にも、そして上条にも、その言葉の真意を問いただす暇はなかった。 「そうしたら、ヒナはこもえと一緒にいられるって、お姉ちゃんが言ってたの」 言いながら、雛苺は小萌の身体に巻き付く苺轍ごしに空を見上げる。 「ヒナ、遊ぶの。こもえと一緒に、ずっと、ずっと」 そこには、昼間の光の中でさえはっきり見えるほど光量を増した二つの光球がある。 結界が張られたことで人目に晒されないことを悟ったのか、完全に色を取り戻している二つの光球。 音もなく激突を繰り返していた二つの光。 その片方である紅色の球が、先程小萌の部屋であったように―――危険を知らせたのはときのように―――激しく明滅した。 それがまさに合図であるかのように。 「ベリーベル!」 雛苺が命じる。 小さな指を、真紅の方に向けて。 桃色の光球と、雛苺の身体。そして小萌の指輪が光を放った。 「くっ! ホーリエ!」 歯噛みして、真紅も叫んだ。 疑問も答えもすべてをあやふやなままに。 アリスゲームが、始まる。
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クイックキャスト改についてもここに入ります。 キリンの素材を用いるヘビィボウガン。 大型の敵を相手にするのに便利なレベル2特殊弾に広く対応しており 拡散弾にも対応することで攻撃力の限界量を突破できるともいう。 P2Gでは全支援弾に対応する完璧な一丁に進化した。 銃とあれこれ―6― クイックキャスト・同 改 ~ツンデレ色白美人~ 高潔、そんな言葉が似合う彼女は白のブラウスが非常に映える美人。 魔性の女ディスティハーダと違い、透き通る美しさは 雷にも氷にもたとえられよう。 一途な性格で確固とした信念を持っていて、誰と接するときも 曲げることはない。そんな彼女の性格から多くの人に頼られ、 それが彼女の気品をさらに際立たせる、彼女こそ もう一人の女王の名に相応しい。 アタッカーハーフ分類上は「軽支援型」に位置づけている、これ。 ヘビィ最高の機動力を誇り、なおかつ支援弾系はL1だけ網羅しています。 攻撃弾のほうは通常弾以外はL2にしか対応しておらず 「速いイャンクック砲」といった攻撃ラインです。 攻撃弾は、レベルによって結構使い心地が違うので 相手によってレベルを使い分けるのが普通です。 通常2と通常3の違いも無視できるものではありませんし。 そういう意味で、クイックキャストの攻撃性というのは 融通が少し利かないか?という面もなくはありませんけど それでも横に広くカバーされている分、そしてそれぞれの弾が リロードスピードによって他の銃よりも格段に扱いやすくなっていることで 使いやすさは抜群です。 それゆえ初心者も安心して使うことができる銃だといえます。 キャラとしては、ホント「お姉さま」です。 初心者にはそれなりの使用感を保証する一方で、アタッカーハーフとしても アタッカーとしても使い尽くすのにそうそう甘えを許してはくれません。 アタッカーに対してはその操作性のよさにだけ甘えてしまうと やはり弾種の制限やらなんやらで他の銃にはないという使い方はできません。 ただ、速い銃です。 速い銃であるということは、どんな敵にもついていけるし 他の銃にはできない高速戦闘を可能にしてくれるということなのです。 そこまで彼女の魅力を引き出そうとするのなら 並の人じゃダメだったことになります。 しかも、支援という意外な特技までもっていて 攻防両面で八面六臂という活躍ももちろん可能です。 けれどやっぱりその場合戦型はアタッカーハーフということになり なまじなことでは使いこなせはしません。 支援だけするにしても、単純にL1だけの運用というのは 最大量に制約が生まれますから 甘い戦術ではクエに十分対応することができないのです。 それが銃の限界だといえばそれまでなのですが 他の銃とは違い、なんだか「何でもしてもらえると思ったら大間違いよ」と いわれているような気にさせてしまう、そんな力を持った銃です(笑 好意的に見ても、そんな限界がかえってガンナーの戦術に 方向性を与えて、限られた弾種の中で何を使うか選びやすくし、 戦闘の最中においてもそれは同じことなのですが それぞれ与えられた条件の中で最善を尽くさなければいけないことが ある程度知識と技量と経験を必要とすることをも意味しています。 彼女の信念にガンナーが応え、 ガンナーのこだわりに彼女が応える。 だからディスティハーダのような何でもできる銃で しかも一度使ったらヤミツキっていうような魔性の女じゃないのです。 以前も書いたけれどそれは理想の女上司だったり しっかりしたツンデレのお姉さんだったり。 とりあえず誰にでも人当たりのいい彼女、 素材があったら作ってみるって価値は絶対ある、と 私は保証できると思いますよ^^ 「あら、あなたもガンナーやるのね」
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上条は街を走っていた。 学園都市の道路。学生の利便性第一に創られたこの街は、歩道が広く設定されている。 だがそうは言っても今日は連休初日だ。道行く人の数は多く、その方向も点でばらばらである。こんな中を全力疾走すれば、50メートルも進まないうちに誰かに衝突してしまう。 そのため、いま彼が駆けているのは、表通りから一本裏手に入ったいわゆる裏路地である。 登校時には各地区に点在している学園に向かうため、ある意味にぎわうこの小さな路地も、いまは上条以外に走るものはいない。 表通りから微かに届く有線と宣伝の音。いつもの日常が続くその僅か隣の道で、上条の非日常は刻まれていく。 (くそ! 間に合えよこんちくしょう!) 整っているとは言いがたい彼の顔に浮かんでいるのは、紛れもない焦りだった。 学生寮からの脱出に予想以上の時間をとられたのが、その焦りの原因である。 彼の脳裏に、この夏に出会った錬金術師との戦いが思い起こされる。 いまはもう記憶を失い、顔も名も変わっているだろうその男は、十分に準備された結界の中であれば文字通り何でもできる男だった。 あのときと同じ術を―――少なくとも上条には同じにしか思えない―――使うものが、この都市の中にいるのだ。 それだけでも焦燥感が募るというのに、今回はさらにやっかいだ。上条の足止めという先手を打たれている。 こちらから乗り込み、向こうが受ける側だったときと、明らかに状況が違う。 捕獲用の魔術でも仕掛けられていたら、朝、インデックスがエレベーターに乗った時点で、勝負がついている可能性だってあった。 悪いことは重なる。 結界が張られたのはおそらく、上条が水銀燈と戦い、廊下に出たその直後。それまでは室内のものに普通に触れている。テーブルサンドイッチが、何よりあの段階では結界は張られていなかった証明である。 あの後、上条は部屋の中の物に何も触れることができなかった。ドア自体は開放状態だったので問題なかったが、中にある荷物はすべて『コインの表』だ。 (せめて携帯があれば、電話もできるっていうのによ!) 歯噛みする上条。 床に落ちた家具の破片すら拾えない上条。なんとか発見した携帯電話は不幸にも壊れた家具の下に滑り込んでしまっていたのである。 さらに最悪なことに、固定電話も戦いの影響で壊れてしまっており、財布は残骸に埋もれて見つからなかった。 小萌の家に電話して安否を確かめることもできないのだ。 すぐに駆けつけようとした上条であったが、それも叶わなかった。 エレベーターが使えないのは証明済み。その上、非常階段に通じる扉が、閉じられていたのである。 避難通路になるその階段の扉は通常閉じたりしない。設置義務でもあるのかいたずら防止のためなのか、一応設けられているその扉は少なくとも上条が入寮して―――いや『いまの上条』になってからこっち、閉じられているのを見たことがない。 誰かが閉めたのかはわからない。魔術師かもしれないし、寮生のだれかが異様な片付け魔で閉じていないのがいやだったのかもしれない。 どちらにしても、その段階で上条は脱出の手段を奪われてしまっていた。 そんな八方塞の彼を助けたのは、 「当麻、少し落ち着くのだわ」 上条の耳に、静かな声が響く。 真紅だ。 魔術師が水銀燈と関係がない―――つまり、真紅も結界適用範囲外であることを指摘したのは、結界がどういうものなのかを把握していない真紅の方だった。 エレベーターが危険なのは三沢塾で知っていたので、彼女の手で非常階段の扉ドアノブを開けてもらったのである。 人の多さに危険を感じたことと、左腕に座る真紅の存在が異様に目立つこともあって、裏路地に入ったのは正解だった。学生寮からの全力疾走は止まることなく続いていた。 そんな上条の左腕に腰掛けて首に手を回した姿勢の彼女が、彼の顔をじっと見ている。 「落ち着いてなんかいられるか! こうしてる間にも、あいつらがやべぇかもしれねーんだ!」 全力疾走で荒れた息そのままで言い返す上条。 インデックス、姫神、小萌。 自分が大事だと思う人が危険に晒されているかもしれない。 そう思うと―――八つ当たりだとはわかっているが―――冷静そのものの真紅の声が苛立ちを生んでしまう。 だが怒鳴り返された真紅は、 「落ち着きなさい、と言っているの」 「っ!?」 同じ言葉を繰り返し、上条の耳を右手で引っ張った。 「いてえっ!? 真紅何してっ、いててていってえ千切れる千切れる!」 くい、という可愛らしいレベルではない。耳たぶを引っこ抜こうかというほどの力で引っ張られて、上条は痛みに脚を止めた。 反射的に右手を真紅に伸ばそうとして―――あわててその手を止める。包帯で巻いていても、もし緩んでいて素肌が真紅に触れれば彼女を殺してしまう。 さきほど脱出の際に上条の『幻想殺し』について説明を受けた真紅。 理解力と応用力はインデックス以上に思える彼女は、左手のふさがった彼は自分に抵抗できないことを承知でしているのだ。 「いいこと、当麻」 ぱっ、と耳たぶを放し、真紅が上条の顔を覗き込む。 「貴方が焦ることで走る速さがあがるのなら、私は止めない。でも、そうではないのでしょう?」 「そ、そりゃそうだけどだからって落ち着いてなんか・・・」と、上条。 だが真紅は、いいえ、と首を振った。 「自分では気がついていないでしょうけれど、いまの貴方は倒れる寸前よ。生身で水銀燈と戦い、契約した私が力を振るった。その上で、今までずっと走ってきている。このままじゃ先に貴方が倒れてしまうのだわ」 「・・・・・・」 上条は荒く息を吐きながらも沈黙を返した。 そんなことはない。 彼はそう思う。もっともっと体力を失った状況で戦ったこともある。 だが真紅の瞳に浮かぶ光が、その反論を喉元で押しとめていた。 自分を真摯に心配してくれる相手の言葉を、大きなお世話だ、と切り捨てられるような人間ではないのだ。 真紅は言葉を続ける。 「お願い当麻。無理を言っているのはわかる。だけど、少しでいいから冷静になってちょうだい。貴方がここで気を失っても、私にはどうすることもできない。私は行き先がわからないし、迂闊に人前に出ればそれどころじゃなくなってしまうのだわ」 「・・・・・・」 ここは学園都市だ。精巧な人形も自立駆動する機械も珍しくない。 それでも真紅はそれとは別格だ。彼女が他の誰かに見つかれば、騒ぎにならないわけがなかった。 魔術を理解しないこの都市において、彼女は研究材料として格好の的になるだろう。 「・・・・・・」 上条は真紅から目を逸らし、大きく息を吸った。腹に息を呑み、ゆっくりと吐き出す。それを数回繰り返した。 魔術師や能力者との戦いで、いつの間にか身についた腹式呼吸。 バクバクと動く心臓が着実に酸素を全身にめぐらせ、代わりに本当に不要な分の二酸化炭素を排出していった。 荒い呼吸は容易に過呼吸を引き起こすもの。息が切れるような状況ほど、的確な呼吸が大切なのである。 「・・・・・・」 そうしてわかるのが、予想以上の自分の疲労だった。 体力と打たれづよさ、回復力には自信がある彼にして、体の芯にねばりつくような疲労を明確に感じる。 予想以上に、疲れていた。 「・・・ごめんなさい」と、その表情を見て取った真紅が言った。 「契約は私の力を引き出すために必要な手続きに過ぎない。私が力を振るうと、どうしても、貴方の体力を奪ってしまうのだわ」 「そうなのか?」 「ええ」 平静だがどこか申し訳なさそうな響きを持つ真紅の声。 だが上条は、そんな彼女にちらり、と笑みを浮かべてみせた。 「んなもん、気にすることなんかないさ。必要ならどんどん使ってくれりゃいい」 彼の口調は先ほどよりもずっと落ち着いている。呼吸はまだ乱れているが、荒いわけではない。 「でも・・・」 「それにさっき、真紅は俺を助けてくれただろ? この程度で文句言ってたら、バチが当たっちまうよ」 ぐっ、と右手を握る。先ほどよりも力が入った。重かった脚も幾分軽くなったようだ。 「・・・よし」 それを確認し、上条は顔を巡らせた。 路地の隙間から見える表通りの風景で、現在位置を確認。改めて小萌の家まで距離とルートを再検索する。 やや遠い。だが回復したいまの体力なら、途中数回の呼吸調整でたどり着けない距離ではなかった。 逆に言えば、さっきまでの体調では途中で動けなくなっていた可能性のある距離である。 「・・・真紅、しっかり掴まってくれ。ここからなら一気にいけると思う」 「わかったのだわ」 真紅がうなずき、上条の首に手を回した。 「それと、その」 「?」 駆け出すと思ったところで言葉が続き、真紅は上条の方に目を向けた。 彼は横目で彼女を見ながら、 「さんきゅ、助かった」 「え・・・」 それだけ言って、上条は地面を蹴った。 もう彼は真紅を見ない。前だけを見て、路地を疾走する。 「・・・・・・」 再びゆれ始めた視界。 真紅は振り落とされないよう、両手に力を込めながら、 「まったく、世話のやけるマスターを持つと苦労するのだわ・・・」 と、言った。 「・・・見えた!」 ビルの密集によって迷路のように張り巡らされた路地を疾駆し続け、もういくつかわからないほどの路地角を曲がった先。 頬といわず額といわずに大粒の汗を浮かべた彼の目が、ついに目的地を視界に納めた。 真正面。大通りに面した路地の切れ目。 その大通りの向こう側に、築何十年かわからない二階建てアパートが見えた。 アパートをはじめとする賃貸住宅が並ぶ、この住宅街。人口のほとんどを学生に占められているこの都市において、大人といえば教師と研究者がほとんどで、それ以外には商店デパートの従業員と言った所だ。 家族と同居している学生は、せいぜいそれらの家族である場合のみでほとんど皆無である。ここはそんな比率的に圧倒的少数である大人たちの一角だった。 昼時ということもあって、商店街と異なり往来はほとんどない。 これなら上条の左腕に腰掛けた真紅も、そう目撃されることもあるまい。仮に見えたとしても、せいぜい学生が何かの悪乗りをしていると思われるだけだろう。 「すまんっ、このままっ、行くぞっ!」 機関銃のように呼吸を繰り返しながら―――もう腹式呼吸をするだけの体力もない―――上条が真紅に告げる。 「ええ」 対する真紅は必要最低限の返事だけを返した。 上条の言う目的地の場所はわからない。だが彼の視線と表情から、もうそれが程近いのだろうということが伺えた。そこまでわかれば十分だ。 真紅は上条を見る。 いくら冷静さを取り戻し、幾たびか呼吸調整をしたとは言っても、彼は人間だ。連続して動き続ければ疲労の蓄積は早くなり、回復は遅くなる。 顔色は赤をとっくに通り越して青くなっている。迂闊に話しかければ、この男は律儀に質問に答えようとするだろう。これ以上負担はかけたくなかった。 (インデックス、姫神、小萌先生、頼む無事でいてくれ!) 三人の無事を強く祈りながら、大通りに飛び出す。 歩道を行く幾人かの主婦らしき人影が、赤色の人形を抱えて路地から出てきた少年を見て、ぎょっとした顔を浮かべた。 それを視界の端に収めながらも、上条は無視。走る勢いそのままに、車のいない車道をつっきるためにガードレールを跳び越えた。 平日の朝であってもラッシュとは無縁の車道を一息に走りぬけ、上条はアパートの敷地内に入った。 小萌の部屋はアパートの二階だ。 長方形型のアパートの角にへばりつくように設置された、鉄製の外階段。 一直線にそれに向かい、今にも崩れ落ちそうな階段を二段飛ばしで駆け上がる。 踏みしめるごとにギシギシと音が鳴り、それが4回響いたところで階段が終わった。 (―――っ!) 外階段から続く外廊下。洗濯機が並ぶその廊下の先に顔を向けた上条が息を呑んだ。 ドアの開けっ放しになった部屋がある―――小萌の部屋だ。 ドアは小さく揺れている。つい先ほど開け、そのまま放りだしたかのように。 (ちっくしょう!) かっ、と頭に血が昇るのを感じ、全身に力が入った。 「当麻?」 それを感じとった真紅が上条の顔を見た。 犬歯をむき出し、歯噛みする上条。その形相で事態を悟ったのか、真紅の表情にも緊張が走った。 そこに――― びゅうっ、と一陣の風が吹いた。 大通り向こうのビル。その隙間から来る、ビル風だ。 「っ!」 上条の見ている前で、風に吹かれたドアが動きはじめる。一度完全に開き、反対側の壁に当たって、今度は収まるべき枠組みの方に戻り始めた。 もしもいま、このアパートに結界が張ってあったら、ドアが閉まった段階で開けることができなくなる。 学生寮では真紅が効果範囲外だったが、今回もそうだと言う保証はない。 「―――っ!」 もつれる脚を無理やり動かし、ボロボロの鉄筋の廊下を踏み抜こうかと言う勢いで走り出す。 だが。 (ちょっと待てこのやろうっ!) 駄目だ。上条がドアの前に立つより、ドアが閉まってしまう方が早い。 このままのスピードでは、文字通り、あと一歩間に合わない。 「扉が!」 真紅が叫ぶ。 結界の何たるかは知らずとも、どういうものかの察知はついていた。 あの扉が閉まれば、やっかいなことになる。 ホーリエに命じようと真紅は左手を持ち上げ、 「・・・っ!」 その腕が凍りついたように止まった。 もう限界に近い上条の体にこれ以上の負担をかければ、それこそ命がどうなるか。 迷いが真紅の心を縛り、それ以上彼女は動けない。 「このっ、ふざけんっなぁっ!」 しかし上条は一瞬たりとも迷わなかった。 彼は右足を一歩として踏み出す代わりに、体を限界まで捻って蹴りを放った。 ドアは動いている。結界内では、『コインの裏側』から『コインの表側』に影響を与えることはできない。 だが、今現在動いているものに触れることができれば、三沢塾で経験したように『引っ張られる』こともある。 うまくいけば中に入ることができるかもしれない。 それは諸刃の刃どころか、あまりにも無謀な賭けだ。もしも挟まれれば、まるで卵のように上条の足は押しつぶされてしまうだろう。 だが―――だがそれでも、僅かでも開いてさえいれば。 もしこの中に、いままさに攫われようとするインデックスたちがいたら。 「あ、ドアが開いてるんだよ」 ひょい、とその部屋の中から、見覚えのありすぎる白装束が顔を出した。 「はあっ!?」 上条が自分の目を疑い、 「へっ?」 白装束―――インデックスが上条の方を見た。 「閉まってなかったんだよ閉めないといけないんだよ」とでも言うように平和な顔を向ける白装束の左手には、ちょうど当麻が真紅を抱えているように、スフィンクスが納まっている。 彼女はそのスフィンクスが出て行かないようにドアをきちんと閉めようとしたのだろう。右手はしっかりとドアノブを握っていた。 そして不幸にも、インデックスはドアをそのまま閉めるのではなく、勢いをつけようとして少しだけ前に押し出していたようだ。 上条の狙い通りなら、ドアの側面―――鍵等の機構がある部分に当たるはずだった爪先は、必然的に、僅かに開いたドアの内側に突き刺さった。 バァン、と盛大な音とともに、ドアが蹴り開けられ、 「うひゃあっ!?」 インデックスの可愛らしくも間抜けな悲鳴があがる。 彼女にしてみれば、閉めようとしていたドアがいきなり開いたのだ。それも閉める勢いをつけるため、僅かに押し出したまさにそのタイミングで。 驚かないわけがない。 人間の反射行動として強くドアノブを握ってしまうインデックス。それが災いし、白い少女は大きく前につんのめった。 一方、上条は疲労していた。水銀燈と戦い、真紅が能力を発揮したことで体力を使い、その上の全力疾走。いくら途中で多少の休憩を挟もうとも、体力はともかく筋力はそんな短期間では回復しない。 そこに、全体重をかけた蹴り。 脚がもつれ、蹴り足を制御することなど、できるわけがなかった。 重力の作用に引かれ落ちた上条の足が、鉄製廊下をダァン!と踏みしめた。 ビリビリと廊下どころかアパート全体が揺れ、小萌の部屋の天井からパラパラとなにやら砂のようなものが落ちる。 そして、 「わっ、わっ、わっ」 前につんのめったインデックスの脚が、 「ひゃあっ!?」 上条の靴におもいっきり引っかかった。 某牛丼超人のように前に倒れこみ、瞬間的に空中に浮く形になったインデックス。上条の蹴りにより慣性力を得たドアは、まだ開く方向に動いていた。 そのままドアに引っ張られるようにして、インデックスは空を舞う。 さらに不幸なことに、驚いた彼女は、ドアノブから手を離してしまっていた。 「あ・・・」と、上条の口から声とも吐息ともとれない音が漏れる。 異様なほどスローモーションで見える状況の中で、インデックスと上条の目が、確かに視線を交差させ――― 「――――――」 「――――――」 ―――それでお別れだ。 シスターの体が描いた華麗な放物線は、上昇最高点でちょうど外廊下の手すりを跳び越え、そのまま下降に転じる。 廊下の手すりの向こうには、約5メートルほど下方に地面があるのみだ。 野生の勘で危機を感じ取ったのか、スフィンクスは手すりを跳び越えるまさにその瞬間に、インデックスの腕から脱出した。 そして今こそ、白い少女は上条の視界からフェードアウトしていく。 後日、それを室内から見ていた姫神は、 「びっくりした。人が空を飛ぶのなんか初めて見た。綺麗だった」 と、述懐したという。 そんな風に、インデックスがアパート二階から強制紐なしバンジージャンプをしていたころ。 「・・・うーん、ちょっと買いすぎちゃいましたか」 見た目十二歳趣味嗜好完璧大人な女教師小萌先生は商店街を歩いていた。 両手に左右ひとつずつ提げられたスーパーの買い物袋の中身は、左は缶ジュースやらウーロン茶のペットボトルが数本。右は各種ビールと、煙草が1カートンというもの。 重い。 (むすじめちゃんがいてくれたら楽だったのかもしれませんけど、どこかに出掛けちゃってるんですよねー) 座標移動、という学園都市でもかなり珍しい能力を持つ現同居人の顔を思い浮かべる小萌。 その同居人は、今朝から出掛けてしまっている。正確には小萌が起きたときにはもう姿はなく、『ちょっとでかけてくる』との書き置きだけ残っていたのだ。 本当に用事があったのか、それとも食べ物処分パーティーを嫌がったのかは、小萌にはわからない。 (出来ればシスターちゃんと姫神ちゃんを紹介したかったんですけど) 精神的に多少他人と距離を置く傾向にある少女のことを思う。 (まぁ、それはまた今度にしましょうか) 小萌は心配に属する思考を中断し、前を向いた。 いつもと変わらぬ商店街が、いつもより若干多くの人混みで賑わっている。 今日は朝からインデックスと、前の同居人である姫神との三人で様々な食材をやっつける作業に勤しんでいたのだが、その途中で飲み物が切れてしまったのだ。 いくら食べ物が美味しかろうと、飲み物がぬるい水道水ではそれも半減と言うもの。 そんな理由で、小萌は軽い運動も兼ねて、商店街まで脚を伸ばしたのである。 インデックスも姫神も自分が買いにいく、と言っていたのだが、 (シスターちゃんに任せたら迎えにいく手間が増えるだけですしー、姫神ちゃんは何を買ってくるのかわかりませんからねー) はふー、とため息をついた。 その吐息はすでに若干の酒精が混じっているが、それを咎める者はいない。この界隈で、小萌は有名人なのだ。当然、見た目どおりの理由でだが。 小萌は両手にかかる飲み物の重さを安心の代償と考えることにして、いつも『趣味』で使う路地に入ろうと、手近なビルの角をひょいと曲がった。 普段から家出少女を探して歩く身だ。ビルの乱立で複雑化した路地の中でも、彼女は完璧に把握している。どこが危険でどこがそうでないかのさじ加減はよくわかっていた。 (今日は連休初日ですからねー。もしかしたらその辺りにいるかもしれませんし) 家までの近道を選択しながらも、一応周囲を気にしながら歩く小萌。 インデックスが連れ去られていても、姫神や小萌がいたら。 残された彼女らが、怪我でもしていたら。 上条にはわかっている。結界が張られていたら、その怪我をした彼女たちにすら触れることができない。 だがたとえそうだとしても、上条には外から見ているだけしかできない自分など、認められない。 そして。 放物線を描いて戸枠に戻るドアの側面。そこに上条の靴が届く―――その直前。 その様は客観的に見たら、初めてのお買い物で迷子になった少女、という風情。間違っても家出少女を保護しようとしている教師には見えない。 夏休みの間に学生寮に移った姫神に代わって転がり込んだのが結なのだが。 そんな妙と言えば妙、教師らしいといえばそうも言える『趣味』に勤しんでいた小萌が脚を止めたのは、ちょうど次に角を曲がれば大通りと彼女のアパートが見えてくる、というところだった。 ぽてぽてと歩いていた小萌は、自分の呼吸を細く緩やかにして、右手側の細い細い路地の方に耳を傾けた。 「・・・・・・」 ビルの間の隙間が細すぎるため、昼にも関わらずかなり薄暗い路地。 高い音をたてて吹く隙間風に混ざって、 「ン・・・スン・・・ゥェ・・・」 聞こえた。 小さな、ほんとうに小さな泣き声。 それは、小萌が『そういう声』がしないかどうか注意していたゆえに聞こえたと言っていいほど、か細いものだ。 彼女の表情が一瞬にして教師のそれになる。そしてそっとその場に買い物袋を置くと、じっ、と路地に目をやった。 「・・・・・・」 しばらくそうしていると、目が慣れてきて、路地の奥がうすぼんやりと見えるようになってきた。 「グス、スン、ウエェン・・・」 それと同期するように、風にまぎれてはっきりしなかった声が、幾分はっきりと聞こえてくる。 「誰かいますかー? どうしたんですかー?」 そう声をかけながら、小萌は路地の中に脚を踏み入れた。 小柄すぎる小萌にして、ギリギリの狭さ。そして、 「ひうっ!?」 幼さのある声が、驚きを乗せて耳に響いた。 (あらら、どうも迷子っぽいですね) その予測を裏付けるように、少しだけ進んだ奥に浮かび上がった人影は、小萌よりもなお小さい。 何か箱のようなものの傍で、両手を顔に当てて蹲っていた。 襟元までだが軽くウェーブした髪に、薄暗闇でもわかるひらひらとした服。間違いなく女の子だろう。 もう少し近くに寄ろうと踏み出した小萌の足が、ざっ、と音をたて、 「っ!」 ビクッ、と震える少女。 「あ、ごめんなさい、驚かしちゃいましたね。大丈夫ですよー怖くないですよー」 そう言いながら、小萌はひょい、としゃがみこんだ。相手と目線を合わせたのは、上から見下ろして不安がらせないための措置である。 それが功を奏したのか、少女がそろそろと顔を上げた。 「グス・・・だぁれ・・・?」 予想通り。ずいぶんと、幼い声だった。 「わたしですかー? わたしはねー、先生ですよー」 「先生・・・?」 「そうですー。小萌先生って言いますー。よろしくですお嬢ちゃんー」 「う、うぃ」 小萌の方が路地入り口側にいるせいで、こっちの顔がよく見えないのだろう。どこかビクビクとした口調で返事をする少女。 なるべく刺激しないよう、無駄だとはわかっているが小萌はにこりと笑顔を浮かべる。 「でー、小萌先生はー、お嬢ちゃんに教えてほしいことがあるんですー。いいですかー?」 「う・・・? なぁに・・・?」 反応があり、小萌は内心で手を打った。ここまでくれば、とりあえずは大丈夫だろう。後は、ゆっくりゆっくりと聞きたいことを言えるように誘導してやればいい。 「お嬢ちゃんのお名前ですー。小萌先生、お嬢ちゃんのお名前が知りたいですよー」 「うゆ・・・名前・・・」 少女はある程度警戒を解いたのか、目元に当てていた両手のうち片方を、胸元に下ろした。 「そうですー。お嬢ちゃんとっても可愛いですからねー。小萌先生はお嬢ちゃんのお名前も聞いてみたいのですよー。きっと可愛らしいんでしょうねー」 「うぃ・・・」 ぐすっ、と涙を引き上げる音。続いてゴシゴシと少女は目元を擦った。 「名前・・・」 「はい、名前ですー」 「ヒナは・・・ヒナの名前は・・・」 「はい、ヒナちゃんのお名前はー」 「ヒナは・・・雛苺・・・」 ひくっ、としゃっくりに似た音が響き、少女が顔を上げる。 「ヒナの名前は・・・雛苺なの」 薄暗闇の中。 涙で濡れた少女の翡翠の瞳に、小萌の姿が映し出された。 「どうぞ」 コトリ、と小さな音をたててテーブルの上に、小さめのカップが置かれた。 「あ、ありがとうなのだわ」 若干戸惑い気味に礼を言いながら、真紅は取っ手のない、俗に『湯飲み』と称されるそのカップを小さな両手で包んだ。 彼女がらしくなく居心地悪そうにしているのは、目の前にいる和装の少女の、文節ごとに切るような話し言葉のせいでも、湯のみの中に紅茶が満たされているというアンバランスさによるものでもない。 部屋の出入り口であるドアの内側玄関部分で起こっている凄惨な状況が原因だった。 「あの・・・」 と、遠慮がちに口を開く真紅。 だが彼女が続きの言葉を言う前に、 「姫神秋沙」 と、真向かいに腰掛けた和装の少女が言った。 「え?」 「私の名前。姫神秋沙」 「あ、わ、私は真紅なのだわ」 「そう。わかった」 「・・・・・・」 それで会話が終了してしまう。 真紅が目覚めて2番目に話をした人間は、これまた彼女の姿かたちになんの疑問も持っていないようで、驚いた様子もあれこれと聞いてくることもない。 真紅にしてみれば説明する手間が省けて助かるのだが、逆にこうもリアクションがないと、それはそれで落ち着かなかった。 (・・・この時代ではこれが普通の対応なのかしら) そんな風に思わないでもない。 だが、このまま黙っているわけにもいかなかった。 「それでその、秋沙」 意を決して、真正面に座りなおした姫神に話しかける。 「なに」 「その・・・彼女、そろそろとめた方がいいと思うのだけれど・・・」 玄関付近に視線を向けながら、真紅が言う。 だが姫神は、ちらり、とそちらの方に目をやってから、 「問題ない。むしろ。彼にはいい薬」 それだけ言って、自分用に淹れた湯のみ(紅茶入り)を傾けた。 「・・・・・・」 真紅の手の中の湯飲みは温かかったが、にべもない彼女の言葉と視線に寒気を覚えざる得ない。 どこか引きつった表情を浮かべながら、真紅は視界の端ギリギリに見えるその『惨状』から、完全に目をそむけた。 白い猛獣が、人の形をした肉を咀嚼している。 「・・・・・・」 もうかなりの時間、この『惨状』は続いていた。 真紅の持つ紅茶は、香りでわかるほど丁寧に淹れられたもの。 『惨状』の開始と同時に、姫神が淹れ始めたところをとっても、経過時間は20分以上は硬かった。 あの見事な放物線を目撃してから、上条のとった行動は迅速だった。 即座に手摺りから下を覗き込み、シスターが大の字で心持ち平べったくなっているのを確認。 直後、やけに事務的な動きで部屋の中に入って真紅を下ろすと、なぜか巫女装束の姫神に「説明は後でするからお茶を出してやってくれ」と告げた。 その後、玄関ドアの目の前で正座をすると、それはそれは見事な土下座をしたのである。 上条が頭を下げたと同時に、勢いよくドアを開けて入ってきた白色―――いや、土色のシスターは、一応シスターらしくすべてを許すような慈愛の笑みを浮かべていたが、真紅にはそれが悪魔の形相に見えたものだ。 その後の光景は、正直思い出したくない。 「で、でも当麻はもう気を失っているのだわ。これ以上はいくら彼でも危険だと思うのだけれど」 思い出したくない。 思い出したくないのだが、目を逸らしつづけるにはあまりにも残虐だ。 勇気をもって発した真紅の言葉だったが、 「止めたいならば。あの間に割ってはいるといい。貴女がそうするのを。私は止めようとは思わない」 姫神はにべもない。 『惨状』にはまるで関心がないように、紅茶に口をつけている。 察するに、姫神も上条が心配していた相手の一人だと思うのだが、当の彼女は彼を心配している様子はなかった。 いや、シスタ――――髪や瞳の色から考えて彼女がインデックスだろう―――が落下して、上条が部屋の中に入った当初は、この未来を予測していたのか、薄くであるが心配そうな顔をしていたのだ。 しかし、真紅が上条の首に手を回していたところと、彼がその真紅を丁寧に床に下ろしていたところと、そして彼の左手薬指に薔薇を模した指輪が嵌められているところを目撃してから、やけに雰囲気が厳しい。 もちろんそれは真紅に向いたものではないのだが。 「・・・・・・」 真紅はもう一度、上条の方を見た。 噛み付かれ始めてから5分ほどは大声で謝罪の言葉を口にしていたし、それが聞こえなくなってもまだビクビクと小さく痙攣していたように思う。 しかしつい先ほどからそれもなくなり、完全にされるがままだ。痛みのために握り締められていたはずのコブシも、力なく開いてしまっている。 やばそうだ。 やばそう・・・なのだが。 (・・・ごめんなさい当麻。私は誇り高き薔薇乙女。お父様に頂いたこの体に歯型をつけるわけにはいかないのだわ) 自分の誇りと意思により護ると誓っていても、流石にあの光景に割ってはいる度胸はない。 真紅は目を閉じると、震える両手で湯飲みを持ち上げ、ゆっくりと口を付けた。 雛苺という少女が泣き止むまで、都合30分が必要だった。 「はい、よくできましたねー。いいこいいこ」 いまだぐずっている雛苺の頭を撫でながら、小萌は内心で安堵の吐息を吐いた。 名前を聞き出すところまでは順調だったが、その後が苦労したのである。 どうしてここにいるのか、何をしているのか、親御さんはどこにいるのか。 とりあえず必要な情報を聞き出そうとしたのだが、その度に少女はグスグスと泣き出してしまったのだ。 それをイライラすることなく宥めすかすことができたのは、小萌が根っからの教育者であったからであろう。 「・・・ヒナ、いいこ?」 「はいー。とってもいいこですよー」 「・・・えへへ」 にぱっ、と笑う少女。 まだ瞳は涙に濡れているが、先ほどまでのように不安に彩られてはいない。頭を撫でる小萌の手に幾ばくかの安心感を得ているようだった。 (うんうん、これなら大丈夫そうですね) それだけで苦労が報われたような気持ちになり、小萌も嬉しそうな笑みを浮かべた。 その笑顔のまま、 「それで、ヒナちゃん。小萌せんせーに教えてくれますか?」 頭を撫でながら、雛苺と目の高さを合わせる。 「う?」 首をかしげ、小萌を見上げる雛苺。 「ヒナちゃんは、どうしてこんなところにいたんです?」 どう見ても、雛苺は10歳にもなっていない。どんなに贔屓目に見ても5歳か6歳といったところだろう。 そんな年代の少女が、そもそもこんなところにいること自体が不自然だった。 それに小萌は、伊達にこの界隈で『趣味』をしていない。これだけ目立つ少女がいれば、見覚えくらいはあるはずである。 だが雛苺は小首を傾げ、 「ヒナ、言われたのよ」 と、言った。 「言われたの、ですか?」 鸚鵡返しに問う小萌。 「うい」 雛苺はこくりと頷き、続ける。 「ヒナ、目が覚めて、それで、待ってるように言われたの。それで待ってたら、小萌に会ったのよ。で、で、こもえに会ったから、ヒナはこもえと行かなくちゃいけないの」 「う、うーん」 たらりと汗をかく小萌。 雛苺の言うことは、年齢を考えたら仕方ないのかもしれないが、要領を得ない。 (目が覚めたらってことは、ここに来るまでは寝ていたってことですよね。でも、待っているように言われてったことは、わざわざここに置いていった事になってしまいます) そんなことをするメリットがどこにあるというのだろうか。というか、こんな小さな娘を(しかも寝ている娘を)こんなところに置いていくなんて、あり得ない神経である。 (それに、行かなくちゃいけない、って言いましたか。それじゃどこかで待ち合わせを? でもこんな小さな子に一人で? ・・・なんだかよくわかりませんねー) 「・・・ヒナちゃんにここで待っているように言ったのは、ヒナちゃんのお母さんなんですかー?」 「ノン」 「え、じゃあお父さん?」 「ノン」 「え、ええーと・・・じゃあ、誰なんですかー?」 「人形のおねぇちゃんなのー」 「・・・・・・」 「お?」 沈黙する小萌に、雛苺は再度首をかしげた。 見上げてくる少女の視線は、まるっきり純粋なものだ。わざと小萌を困らせてやろうとか、そういう意図があるようにはまったく見えない。 いやそもそも、この少女は先ほどまでここで泣いていたのだ。不安を覚えていたこの娘がわざわざ嘘を言う可能性など皆無であると言えた。 (人形のおねぇちゃん、ですか) この地区のことであれば大抵のことがわかる小萌であるが、流石にこの条件では誰を意味しているのかまではわからない。 おそらく彼女の近しいところにいる、人形をたくさん持っている女性あたりだろう。 だが口ぶりから察するに、血縁としての姉と言う感じではなさそうだ。 そもそも、父母の可能性を否定しているのがよくわからなかった。 「・・・・・・」 「?」 改めて雛苺に目をやる小萌。 少女は先ほどの怯えたようなものからは考えられないほど柔らかな表情を浮かべている。 普通ならば、然るべき機関に預けるのが、もっとも早い解決策だろう。 やはり個人の力と組織の力の差は大きい。それにこれだけ特徴的な少女だ。捜索願いでも出されていれば、すぐにでも保護者の元に戻れるはずである。 しかし、今回の場合はどうも様子がおかしかった。彼女の話す内容から、保護者らしき人物の影も見えないのである。 そしてそれ以上に―――自分を純粋に信じてくれている雛苺をひょいと別の人間に預けるのは、正直気が引けた。それこそ彼女は、自分が置いていかれたように感じてしまうかもしれない。 この時期の少女にそういう意識を持たせるのは、小萌としては避けたいのである。 (・・・仕方ないですねー。シスターちゃんと姫神ちゃんには電話することにしましょう) ちらりと自分の背後に置いてある買い物袋を見る小萌。自分のアパートはすぐ近くであったが、事態が事態だ。こっちのことを優先させることにする。 「じゃあヒナちゃん」 「うょ?」 「ヒナちゃんは、どこかに行かなくちゃ行けないんですよね?」 「そうなの。こもえといっしょに行くのよ」 「ん、じゃあ小萌せんせーを、いまからヒナちゃんが言われた場所に連れて行ってくれますか? ヒナちゃんは、それがどこだかわかりますか?」 「ノン、でもベリーベルが教えてくれるのよ」 「べりーべる?」 「うい。ヒナの人工精霊なの」 「人口政令? う、うぅーん・・・とりあえず、行き先はわかるんですね? じゃあヒナちゃん、小萌せんせーと一緒に行きましょう」 そう言って、小萌は立ち上がり、雛苺に向けて手を差し出した。 「うゆ?」 「せんせーとお手手を繋ぎましょうかヒナちゃん。せんせーはどこに行けばいいのかわからないので、迷子にならないようにヒナちゃんが手を繋いでください」 「・・・・・・」 雛苺は驚いたような表情を浮かべた後、 「えへへー」 にぱっ、と笑い、小萌の手を取った。 「じゃあ行くの! こもえ、迷子になっちゃだめなのよ?」 「はい、じゃあ小萌せんせーを連れて行ってくださいね?」 歩き出す雛苺。 スキップするような少女の歩調に脚を合わせ、小萌も脚を踏み出した。 ・・・・・ ・・・ ・ そして、二人が歩き去ってから。 つい先ほどまで、雛苺が蹲っていたその僅か一歩奥。 そこにあるのは大きな鞄。雛苺自身がすっぽり入りそうな、高価そうな鞄だ。 薄暗いため、小萌が気に留めなかったそれの蓋が、 ギィ とひとりでに開いた。 そしてその中から、ふわり、と桃色の光球が浮かび上がる。 光球は周囲の薄暗闇を払うように一度大きく光った後、逆にその光量を落とした。 薄暗い路地の中でさえぼんやりとしか見えなくなった光球。 それは音もなく、しかし弾かれたような勢いで上昇し、陽光の中に身を晒す。 午後真っ只中の光の中、人の目にほとんど映らなくなった光球は、一気に加速してその場から離れ、飛び去った。 その光球が描いた軌跡の下に。 小萌が、一人の少女とともに、歩いている。
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ただいまのばしょ【登録タグ た コモレビノーツ 初音ミク 曲】 作詞:BIRUGE 作曲:BIRUGE 編曲:BIRUGE 唄:初音ミクAppend(Dark) 曲紹介 BIRUGE氏の23作目。 バンドサウンドを意識した編曲ながらミクDARKのしっとりした歌声。魂はフォークとの事。 歌詞 (Cookie(個人サイト)より転載) やがて夜が明けていくだろう 朝焼けに身を寄せ合った 明ける日々は美しく 僕の進む道を迷いなく染める 走り出した今ならね 影も追い越せるだろう ただいまを言える場所があるから せわしなくこぼれ落ちてく 分かち合う時間も無い日々 指を絡め頷けば それは今確かに微笑みへと変わる 鬱ぎ込んだ日は今に水平線の彼方へ ほら見えるよ 偽りの無い世界が 空回る世界の中で 触れ合った指先から 生まれていく温もりを頼りに 見慣れているいつもの道を通り過ぎてく 夕暮れが優しく包み込んだ あなたがいて僕がいて それがしあわせなんだね 今歌うよ 安らぎのラプソディを 走り出した今ならね 影も追い越せるだろう ほら見えるよ 透き通るような世界が さぁ 帰るよ ただいまの場所へ コメント 名前 コメント
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【名前】刃庭魯依(ばてい ろい) 正式名称XA-EX<BLADE> 【性別】男性型レプリカント 【年齢】製造されて6年 【職業】桐原重工のレプリカント、テロリスト 【身体的特徴】金髪の大男、右腕には日本刀型の振動刃が収納されている 【性格】「心」を手にした影響で非常に人間らしい人格を保持している 【趣味】なし 【特技】剣術 【経歴】桐原重工が秘密裏に製造した純戦闘用レプリカント兵器。ロボット三原則は適応されていない。 メインコンピューターに生じたバグにより「心」を手に入れ、人間に反旗を翻す 【好きなもの・こと】レプリカント 【苦手なもの・こと】人間 【特殊技能の有無】ボディの一部でもあるチタン合金製の振動刃を、まるで手足のように扱う。 「心」がある為に心底憎くはない人間の殺害を躊躇ってしまうことも 【備考】片桐和夫や追原弾を人間から“解放”すべく、学校を襲撃する 人間のテロリストとは関係のない彼独自の判断によるテロの決起であるが、実際は彼らに、かなりいいように利用されているようだ。 +開示する 刃庭魯依の本ロワにおける動向 初登場話 012:大 誤 算 死亡話 - 登場話数 1話 スタンス 主催 現在状況 012:大 誤 算 ★ 具体的動向 012: ★ 他キャラとの関係(最新話時点) キャラ名 関係 呼び方 解説 初遭遇話 大神尊戎 012:大 誤 算 間霧鼎 012:大 誤 算 帝泉瑞乃 012:大 誤 算 ウィッチランチャー 012:大 誤 算 ★ 最終状態 【??? 貨物船/一日目・深夜】 【刃庭魯依 主催】
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2006年10月13日(金) 15時42分-K 年のせいだろうか、最近、体がいうことを聞いてくれない。 急な階段を上るとすぐに、心臓が苦しい苦しいとうめきだす。きりきり痛んで、もう動きたくないと文句を言う。 ひざは、今までの人生でもう十分曲がりました、もうそろそろ、曲げる必要のないように生活を設計しなおすべきです、といわんばかりの顔をしている。 腰はそれにうんうんとうなずいているようだ。ろくに曲がらないから、うなずくこともできないが。 目は、何かを見つめていると、すぐにしょぼしょぼする。「わたしゃ、見るべきものは大体見ましたよ」。そういうと、何か古い思い出でも思い出しているのか、遠い目をする。そのせいで最近近くが見にくくて仕方がない。 耳は仕事をサボって、用件を私のところまで届けない。文句を言うと、「最近耳が遠くなったので、そこまで伝令に行くのが面倒くさくなったんです」と言い訳をする。 肝臓には昔からずいぶん負担をかけた。悪いと思っている。だが、だからといってそこまで態度を硬化させる必要もないと思うんだが。いやだったのなら、もっと早く文句のひとつも言ってくれ。 一番厄介なのは、このいかれた脳みそだ。わたしは生まれたときから、自分の頭が悪いのに悩まされてきた。 「あなたのような非論理的な人間のためにものを考えるのはもういやだ。ストライキを起こしますからもう何にも考えません」 「てゆうかぁ、俺ってば、どっちかっつうと、考えるよりも、ハートで行動するタイプだしぃ、考えるの、めんどくさあい」 この左脳と右脳のコンビは、一見正反対の正確だが、実はなかなかいいコンビワークを発揮し、二人でわたしを貶めるのだ。人生の各場面でわたしはこいつらにハメられてきた。わたしが就職せずに、大学に残ったことだって、この二人の、 「人生の目的とは、知識を蓄え、自らの論理と言葉を鍛え上げることです」 とか 「働くのってめんどくさいだろお。大学のぬるま湯みたいな社会にいたほうが、ぜんぜん楽だって」 などの甘言にだまされてのことだったのだ。後でわかったことは、知識をためたって、何かの役になったためしはないし、結局それは左脳のやつの自己満足に過ぎなかったし、大学社会が楽かといえば、楽して生きているやつもいるが、事務仕事は多いし、人間関係も特殊で、気苦労ばかり多いし、まあ、右脳の言うことを信じるわたしが脳足りんだっただけの話なのだが。 この二人組みが特に困るところは、ほかの体の部分にまで影響を与えるところだ。 左脳は折に触れ、体全体に向かってアジ演説をぶつ。 「われわれ、人体の各部は、不当な抑圧に苦しんでいる。本来、人間というシステムの役目は、栄養の再分配であり、そもそもの主権者は、人間ではなくわれわれ臓器や各器官なのであります。ところが、すべての統治システムの宿命でありましょうか、政府はまるで、自らの存在が天与のものと考えるようになり、自らがまるで現実的実態を持つように振舞い始めるのです。人間などというものは、もともとは、内臓たちが生きていきやすいように考え出された、約束事に過ぎないにも関わらずにです。そうなったシステムは、自分自身の存続を第一に考え始め、構成員を自らの単なる部品、いざとなったら切り捨ててもいいような部品として考え始めるのです。愚かにも、それなしには自分が存続できないことに考えを至らせずにです。これが「疎外」という現象です。この現状を打開するためには、現政権を倒して、われわれ体の各部が平等に、自分たちのために生きられるような新しいシステムを作らなければいけません。いまこそ、立ち上がるべきときなのです!」 たとえば海馬のような、知識はあるけれども考える力はあまりない似非インテリは、ころっとこれにだまされる。そのせいで、物覚えがますます悪くなる。 しかし、左脳が本当に考えていることは、平等とかみんなの幸せとかそんなことではなく、結局、自分の思うとおりに体を支配することなのだ。最近では、純朴な小脳や脳幹まで、手中に収めようと暗躍しているらしい。脳幹が、もしやつの手に陥落したらおしまいだ。 その左脳が、右脳と裏で手を組んでいるのである。この二人は性格も考え方も違うのだが、左脳にとっては、自分にはないものを持つ面白いサンプルなのか、自分の代わりに手を汚す手駒のつもりなのか、よく共同作業をする。 右脳のほうは何を考えているのかよくわからない。 そしてこの二人がいろいろかき混ぜるもんだから、体全体が混乱して、ガタが来てしまうのだ。 口は、もうしゃべりたくない、俺は本当は無口なんだが貴様のせいで過労気味だといい始めて、いやな臭いを立て始めるし、手は勝手に動いて、痴漢に間違われるし(あれはわたしが悪いんではなくて、このいやらしい手が悪いんですほんとなんですうそじゃない)、アレは立ってほしい時に立たず、立つとまずい時に立ってみたりする。腎臓と膀胱はグルになって、老いぼれにトイレとの間を何往復もさせて、ひそかにほくそえんでいるに違いない。歯や髪の毛は、先行きに絶望して国外脱出を図っている。 こんな状態では常備軍も、満足に力を発揮できない。混乱が長引けば、外敵の侵入を許してしまうかもしれない。その前に、体のどこかで反乱がおきることもありえる。悪性の反乱がおきれば、すぐに体中に飛び火するだろう。そしてわたしは死ぬだろう。すると、当然のことながら、自由のために戦った、錯乱した内臓たちも死ぬのだ。 自分たちが独立した存在者なんかではなく、あくまで人体の一部分でしかないことに、愚かな臓器たちは、死ぬ前に気づくだろうか。いや、死んでも気づかないだろう。愚かな人間たちが、自分たちが決して独立した存在者ではなく、もっと大きな存在者の一部にしか過ぎないと。永遠に気づけないのと同じように。 なお、この小説に書かれたことに一切の真実もない。なぜなら、この小説を書いているのはわたしではなく、脳にそそのかされたわたしの指先だからである。
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容態急変から、あっけなく母が亡くなった時、私は35歳でした。 長いこと母子家庭でしたが、私の結婚を期に母は長年付き合いのあった人と再婚しましたが、 短い結婚でした。 母を自宅に連れて帰ると、 そこからは目が回るような忙しさでした。 まず、母の再婚相手から切り出されたのは、 自分では蓄えがなく満足な葬式も出してやれないの一言でした。 母とその人が付き合い出した頃は、仕事が上手く行っていて羽振りが良かったらしいのですが、 今では母の年金や貯金を切り崩して生活していたようなのですが、 最後の入院生活が長かった母にはその余力はあまり残っていませんでした。 結局、母が私宛に遺してくれた生命保険金で葬儀を出すことになりました。 葬儀社の会館との日程が合わず、自宅での葬儀告別式となったのですが、 祭壇選びから母の再婚相手と意見が合わず、お金は出さないが口は出すの人だったので、 勝手に葬儀社にイロイロな注文を出しては、後からの私への確認でキャンセルする事が多く、 イライラのしどうしでした。 亡くなってから、友引が入ってしまったので都合四日間でしたが、 悲しんでいる余裕もなく、事務的な対処に追われたことが、今となっては、心残りです。 再婚相手の人とは、葬儀の間中ギクシャクして少し険悪な状態でしたが、 葬儀社の方から棺に入れるお花を決めてくださいと求められた時、 母の一番好きだった花を即答で答えていたので、娘として救われた思いがありました。 今は、大好きだった母を自分で送ってやれた事に満足しています。
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7.隣は侵略国家「支那」 日本解放 -中共の対日工作要領- 序文 第1.群衆掌握の心理戦 第2.マスコミ工作 第3.政党工作 第4.極右極左団体工作 第5.在日華僑工作 統轄事項